コロコロ VS 抜け毛

「人生とは自分自身との終わりなき闘いだ」なんて思っちゃいるけど性根がヘラヘラしている小市民の雑記ブログです。

【紀行】初級者サーファーのハワイ一人旅(18)

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サーフィン歴7年(年に数回のへっぽこ)、英語はからっきし(中学一年レベル)の
人見知りオヤジが挑んだハワイ一人旅! 連載形式でお届けします


 

 空腹と軽い吐き気を同時に抱えた僕は、改めて部屋を出て、夕食をとりに出かけた。
 いいかげん汁物が恋しかった僕は、向かいのロイアルハワイアンセンターのフードコートへ赴き、ベトナム料理の店でフォーを頼んだ。注文を終えて、レシートを受け取り、手持ち無沙汰となる。どう待てばいいんだろう? 僕のそばにいた白人の中年女性に片言で問いかけた。

「I'm sorry. I don't understand English. Uh...」足元を指差す。「Order number, Calling me?」

 ここで待ってると、注文番号で呼び出してもらえるのかな? そういった意図の単語の羅列。女性は「Yes, No11」と、僕のレシートを覗き込んで言った。
 僕は店員の物まねをするように、「Oh,『number, eleven!!』?(って感じに呼ばれるの?)」とふざけてみせると、女性は笑って大きく頷いた。
 食欲よりも吐き気の方が勝った僕は、やがて手渡されたフォーと春巻きに挑んだものの、まるでゴムのようなそれを食べきることができないまま、ゴミ箱へと放り込んだ。
 ホテルへ戻った僕はシャワーを浴び、気を失うように眠りに落ちた。

 

 翌朝。いつもどおり6時に鳴ったアラーム。でも疲れのピークを迎えていた僕は朦朧とした意識で6時30分にセットし直し、二度寝した。
 あっという間にやってきた30分後のアラームに叩き起こされる。僕は肩と腕に貼っていた湿布を剥がし、首に貼っていた温熱シートを剥がした。蒸気でアイマスクは枕元に落ちてあった。
 昨日タカさんに勧められて買った1,5リットルの水が残っていたのでそれで豪快に喉を鳴らすと、僕はベランダに出て外気に身を浸した。
 今日はたっぷり一日過ごせる最後の日だ。
 それにしても連日好天に恵まれてよかった。シェラトンホテル越しに海に目をやる。波チェックをするつもりが遠くてよくわからず、結局その画を単純に見て楽しんだ。
 おし、行くか。僕は最低限の現金と水着のみの簡単な身支度をして、腕時計を忘れずにはめて部屋を出た。
 モクサーフに顔を出す。この店の一回目、おととい接した彼がいた。
「ざっす。また来ましたー」
 軽く挨拶すると、彼は「おっ」と軽く仰け反る仕草を見せた。
 来客に対して「おっ」て。この世界や文化に慣れない人はやっぱり怒るだろうなあ、と改めて思った。でもその「おっ」の一言は、明らかに前回よりも好意的なものだった。
 接客業としてはNGかもしれないけど、彼らは客をサーフィン仲間として見ているフシがある。軽い説教を垂れてみせたペーペーの客が、こりもせず朝早くからまた顔を出したこと。それは僕にサーフィン愛とヤル気があることの表れ以外の何ものでもないわけだ。お、がんばるじゃん。彼の反応は、そういうことなわけだ。ここがハワイだということも手伝って、僕は彼のその応対その感覚を、むしろ心地よく感じた。
 例によって9のロングを借りる。今日の板はノーブランドなのか、少なくともドナルド・タカヤマの板ではなかった。9のボードは形によって何とか脇に抱えることもできるのだけど、大きくて重い分、頭上に乗せたほうがラクだ。僕は今日も部族の女のスタイルで、ここから目と鼻の先のカヌーズポイントへ向かった。

 

 

「Good morning」
 これで三度目となる、サーフィンの神様へのご挨拶。彼は返事するでも微笑み返すでもなく、真正面をただ見据えている。
 デューク像の脇を抜けてビーチに着くと、チラホラと点在する観光客の中にまじり、ストレッチをはじめた。身体が、ガッチガチのギッシギシである。過度なストレッチはかえって身体を疲れさせてしまう。そう感じてほどほどにして切り上げ、僕は足首にリーシュを巻くと海に飛び込んだ。
 沖の様子を眺めながらゲッティングアウトしていると、今日も沖のラインナップに、昨日も一昨日も見かけてちょっと気になっていた人がいた。黒いキャップを被ってロングボードに乗っている、ややふくよかなアジア系の中年女性だ。体型はともかくとして、彼女はとてもスタイリッシュなサーフィンをする。
 いちばんアウトのずらりと並ぶラインナップの端っこに陣取り、混雑をさけるように自分の波乗りを楽しんでいる感じで、彼女は選ぶ波、選ぶ波、必ず上手に乗ってみせていた。
 タカさんもキャップを被ってサーフィンしていたけど、それがとても難しいことだということはよくわかる。サーフィン用の日よけ帽は、360度ツバのついたハットのような形状で、顎紐を締めるかたちのものが普通だ。だけど彼女もタカさんも、ふつうのキャップを被っている。それはつまり転倒して波に巻かれないという自信の表れであり、そして日々それを実践してみせている技術の裏付けでもある。
 すごいな。波待ちしながら、迫りくるうねりを乗り越えながら、彼女のサーフィンに着目する。ひとつ、新たな発見があった。それはスタンスだ。
 僕はショートボードのように、左ターン時に右ひざを絞り、右ターン時に左ひざを絞りやすくするよう、やや内股のフォームでロングボードに乗っていた。それをタカさんに指摘された。いっそガニ股にするくらいの意識で、まっすぐ腰を落とせ、と。
 でも今、沖で気持ちよさそうに波に乗る彼女のフォームを見て、また違いに気づいた。彼女はほとんど棒立ちだった。両足を置く幅がとても狭い。そしてそのかわり、両腕を広げてバランスをとっている。Tの字のようなその様はよく考えればビールのロングボードの絵そのものだ。そうか、あれがロングボードの乗り方なんだ。
 ……でもきっと、とても難しい。ここ連日ここハワイの海でロングに乗っているので、少しはわかってきている。力強い波の上は傍から見ているよりもとても不安定で、油断すると吹っ飛ばされそうになる。僕のような初心者だと、両足幅を広くとって踏ん張らなければならない。だからタカさんはそれでヨシとしたのだ。ただ、膝を壊さないように絞りすぎるなよ、というだけに留めて。
 でもこれから僕がもっとうまくなれたなら、きっとまた違う乗り方ができるようになるのだろうし、そんな僕をタカさんがもし見たら、その乗り方に対するまた別のアドバイスをくれるのだろう。そんな風に思った。
 昨日、タカサーフのツアーを終えて、学んだこと。それは、きちんと教えを乞うことの大切さだ。僕はB型である。血液型占いを信じるクチではないのだけど、B型といって往々にして言われがちな、マイペース、頑固、熱しやすく冷めやすいなどの性質を僕は見事なまでに持ち合わせている。そして年々歳を重ねるにつれ、その頑固さやマイペースさに拍車がかかってきていることを自覚している。
 人が良かれと思って言ってくれることややってくれることがある。僕はそれを「ありがとう。だけど僕はこうするよ(余計な御世話だよ)」と受け流してしまうことが多い。自分の大切にしていることやこだわりのあるものになればなるほど、それは顕著になる。
 でも、真逆だな、と思った。大切にしていることやこだわりのあるものだからこそ、柔軟に教えを乞うたほうがいいのだ。僕のようなちっぽけな一人間の、たかだか38年の人生からくる狭い見識とくだらないプライドで先達の教えを固持するなんて、もったいないことこの上ない。
 素直に教えを乞えば、そしてそれを実践してゆけば、きっとよりよくなっていくのだ。もう38歳。性格なんてそうそう変わらないだろう。旅のひとつで変わりはしないだろう。だけどせめて、大切なことやこだわりのあるもの、それくらいは、柔軟に差し伸べられる手、導かれる手に従ってみよう。そう思った。
 よし、観賞は終了。ぼちぼちやるか。僕はタカさんの指導を、そして昨日の歓びを思い出しながら、また一人でのサーフィンをスタートさせた。
 来た。胸サイズの波。今までみたいにビビって妥協した波ではなく、アウトの連中のおこぼれではあるけれど、セット波のひとつだ。僕はその波を選んだ。
 教えられたやり方で旋回し、板を岸に向ける。横に進みたいからと斜めに向けてはいけない。教えられたとおり波に真っすぐにする。タイミングを見計らい、岸に向けてパドルを始める。
 躊躇してはいけない。テイクオフの精神はGo for it! だ。タカさんの声がよぎる──Go Go Go Go Go Go!
 僕は見事テイクオフしてみせると、さっき疲れた身体に鞭打ちながら必死でパドルアウトしてきた距離を、ぐんぐんと戻っていった。
 サーフィンの楽しいところ。それはやっぱり波の上に立つということだ。ふつう人は、波というものを岸の側から見る。あるいは海に少し入って、波を飛び越えてみたりかぶってみたりする。いずれにせよ、波は相対するものなわけだ。
 でもサーフィンは違う。波は相対するものではなく、乗るもの……一体化するものなのだ。水の上に立つという独特の浮遊感。水の上を走るという独特の疾走感。そして、そこから見えるとても美しい景色。
 モクサーフの彼の言うとおり、曲げるのが困難なロングボード。まだまだ下手くそな僕は、なかなか真横に滑っていくほどにコントロールすることができない。それでも僕は、ゆらーり左へ、そして今度はゆらーり右へと、たしかに進んでいった。
 視線の先にはワイキキビーチがあった。はっきりとこの眼に映った。ゆるやかな湾のような形状の白い浜辺。そこには色とりどりのビーチパラソル、ビーチチェア、くつろぐ海水浴客の姿。その背後には青々とした木々、そして陽の光を目いっぱい浴びる豪奢なリゾートホテル。波という自然と一体となった僕の身体は、そんなテーマパークのような、夢のような景色の中へと、突き進んでいった。
 けっきょくこれが、最初で最後の一本だった。そしてこれがこの旅における、僕の最後のライディングでもあった。
 僕のサーフィンにおける体力は、この一本をもって限界を迎えた。

 

(つづく)

 

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