コロコロ VS 抜け毛

「人生とは自分自身との終わりなき闘いだ」なんて思っちゃいるけど性根がヘラヘラしている小市民の雑記ブログです。

【紀行】初級者サーファーのハワイ一人旅(20)

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サーフィン歴7年(年に数回のへっぽこ)、英語はからっきし(中学一年レベル)の
人見知りオヤジが挑んだハワイ一人旅! 連載形式でお届けします


 

 そういえば。会社の人と、ラニカイかカイルアか、といった話になったのを思い出した。僕がカイルアに行くというと、ラニカイの方が~と持ちかけてくる。出たよ、またこの手のが。僕は呆れた。○○の方が~という話に一体なんの価値があるんだろう。それぞれとても綺麗だし気持ちいい、それでいいじゃないか。
 むかし会社でのこと。沖縄の海が良かったと話し合っている二人に割り込むように、バブリーなお局が「各国あちこちの海を見てきたアタシに言わせると、沖縄の海なんかダーメー」と言い放った。僕はそれをとても不愉快な思いで聞いていた。好きなものの凄さを表現するのに、比較対象を持ちだしてそれを叩くというやり方が僕は大嫌いなのだ。
 で、それから数年。そのときの言われた側の男の子と「沖縄の海っていいよね」という話になった際、「沖縄のどこ行った?」と問われた僕が「本島」と答えると、「いやいやいや本島の海なんかダメでしょー」と言われてしまった。何だよお前も同じかよ。
 僕は沖縄本島の北の方、オクマビーチや、古宇利大橋から望むエメラルドグリーンの海を感動的なほどに綺麗だと思っているし、グアムのタモンビーチもとても美しいと思っている。何なら白浜だって綺麗だ。優劣なんかつけなくたって良いじゃないか。
 大体、カイルアとラニカイの争いほど馬鹿馬鹿しいものはない。浜辺は続いていないらしいけど、両ビーチの距離は徒歩15分程度のものらしいし、そもそも両者は同じ海なのだそうだ。そんなカイルアとラニカイ、海のアップ画像、砂のアップ画像を比較して、こっちがラニカイでやっぱこっちのが綺麗だわ、とかわかんのか?
 そんなことを思いながら波打ち際に立っていると、思いの外強い波が寄せてきて、僕は膝から下が水浸しになってしまった。シット!
 ビーサンでもスリッポンでもなく、今日も歩くからと思って履いてきたKEENのスニーカーだったわけだけど、裏目に出た。中までグッチョグチョで、これしばらく渇きやしないだろうな……。
 僕はせめて少しでも不快感から逃れようと、靴下を脱ぎ捨て、靴を手に持って歩くことにした。
 カイルアビーチは、ビーチの出入り口に近いところほど日本人で埋め尽くされていたので、僕は波打ち際に沿って北上していった。すすむにつれ人口密度が減っていき、一方、人種の割合として外国人率が高まってきた。
 そこで僕はふと、パイプラインのときと同様、ビーチチェアに寝そべる白人のお姉さん二人組を見つけた。外人のお姉さんのケツを追いかけるために来たといって過言ではないこのハワイ旅行。パイプラインでのナンパ(といっても写真撮影だけだけど)に成功していた僕はすっかり調子に乗っていて、ここカイルアでも同じ暴挙に出た。
「Hi」強者の余裕で歩み寄る。
「……」訝るお姉さん方。あれ?
「Ah…I came from Japan」
 ただ頷くお姉さん。なんか調子狂うな。
「Ah…would you take my picture?」
 そう言うと、ああそれくらいなら、といった様子でデジカメを受けとって、お姉さんは僕を撮ってくれた。よしよし持ち直してきた。気を取り直して、ここで必殺の殺し文句だ。なんせこれでノースの女はイチコロになったんだ。僕はO・ヘンリよろしく「緑の扉」を開けた。
「……with me?」
 イケメン日本代表になったつもりで満面の笑みでそう言うと、お姉さんは一言、
「ノウッ」
 とピシャリと撥ねつけた。
 これがこの旅で僕がいちばんハッキリとリスニングできた英語であるのは間違いない。そして僕がこの旅でいちばんひどい発音で放った言葉が、このときの「オウ、ハッハー、テンキュウ」だろう。僕はカイルアの海に散った。
 彼女らに怪しいアジアの変質者と思われてはたまらないので、そそくさと立ち去るのではなく、ジリジリと移動しながら、撮りたくもないオッサンや老人の写真を撮っては、出来栄えを確認するフリをして即座に削除するという悲しい作業にしばらく明け暮れた。よく見るとお姉さんに撮ってもらった写真はわざとかってくらい超ヘタクソ。ファック! ビッチ! 僕はそれも削除した。遥々日本から6400km。カイルアビーチを前にして、いったい何やってんだ。
 ひと夏の恋にやぶれ──もとい、カイルアの観賞に満足した僕は、これ以上の北上をやめて南下して戻ることにした。
 やっぱり、どんどん日本人比率が増えてくる。ま、別段イヤだとは思わなかったけど。うるさいわけでもないし、マナー違反しているわけでもないし、彼女らに何の罪もないし、そもそも僕は何様でもないのだから。
 カイルアビーチを後にし、同じ道を引き返す。でもそれじゃ芸がないので、些細なことだけど反対車線を歩いて戻った。
 途中、民家の庭にプルメリアの木を見つけた。白くて小さなプルメリアが綺麗に咲いていたので、ハワイだなあと思わず顔を綻ばせた僕は、それをカメラに収めた。とてもかわいらしい小さな花。

 

 

 カイルアタウンの町はずれまでやってきた僕は、57の表記のあるThe busのバス停を見つけ、そこでバスを待った。他には誰もいない。後ろは学校のようだったけど、学生の喧騒などは聞こえてこなかった。静かに授業中? それとも夏休み? ハワイの学校事情はわからない。
 10分ほどすると僕が来たのと同じ方向から、一組の日本人家族がやってきた。30歳前後の娘さん、その両親といったところだ。
「オマエ声かけろ」
「ええー」
「いいから」
 などとやりあっている。僕の、けっこうな至近距離で。
 やがて娘さんが意を決したように口を開いた。「Excuse me…」
「はい」
「え、日本人?」
「はい」
「現地人だと思ってました」
「日本人です」
 ああよかったあ、と脱力して座る三人。誰が現地人だ。
 どうやら僕と旅路が似ているようで、カイルアビーチを見てきて、これからアラモアナへ戻りたいのだという。
「バス停はここで合ってるんですか?」と母。
「57番路線で、来たときと反対車線だから、合ってると思ってますけど」と安心させる。
「うちら福岡からなんですが」と父。
「こっちは自由気ままにやってます」と説明。
「お兄さんどれくらい待ってます? ウチらが来るより」と娘。
「10分くらいすかね」適当に答える。
 福岡県民はせっかちなんだろうか。騒がしい親子は、ああだこうだと、どうすれば早く戻れるのか話し合っている。んー、必要以上に日本人と触れ合いたくないんだけどなあ。
「あの」僕はあっちへ追いやろうと目論んだ。「今回旅行へ来られて、長いことバスを待つのは初めてですか?」
 三人とも頷く。よっしゃ。
「僕三日目ですけど、3,40分待ちとかザラですよ」
 ええーっとざわめく一家。効果あり。もう少しだ。
「お兄さん平気なんですか?」
「ええ。僕、気ままな自由行動なんで」
「来たとき、どこで降りました?」
「ショッピングセンターの前です」
「同じ! じゃあ帰りのもあの辺から出てるってことですよね」
 よしよし、自らそっちの方向に向いていってくれてる。でもここで、そうですとは言い切れなかった。だって知らないし。「……たぶん」
「ねえパパ。あっちの方が、別の路線のも含めて考えるともっと早くバス来るんじゃない?」
 よし! あっち行け! 行ってくれ!
「うむー」
 悩むな! 悩むなおやじ!
「ねえ、みんなであっち行った方が……」
 ……なんか、良かれと思ってくれてるんだろうけど、みんなで、の部分のニュアンスに僕も含められてる気がする。
 そしてここで父が、ようやく重い口を開いた。
「オイ、ショウコ。ちょっとトイレ行ってくるから。もしバスが来たら三人で止めておいてくれ」
 三人? えっと、ひとり(奥さん)、ふたり(娘さん)、さん……僕は諦めた。
 思いの外、57番バスは早くやってきた。
「よかったあ、ここで待つお兄さんの判断に従って!」娘さんが褒め称えてくれる。「あのタイミングであっちへ移ってたら、乗り過ごしてたかもしれんねえ」
 僕ら──もとい、僕は57番バスに乗り込んだ。三人はよく考えもせず前方の優先席に座った。僕は少し離れた二人掛けに座った。
 つぎの停留所が、来るときに降りた停留所の反対車線のところだった。そこから乗ろうと判断した人たちの多いこと多いこと、大行列ができていた。あながち娘さんの僕の評価は間違っていないかもしれない。一つ手前の停留所から乗ってよかった。
 大行列が乗ってくる。そこで僕はお節介なことに、「そこ優先席ですからいずれ譲らなきゃですよ。移られた方が」と三人へ言ってしまった。ありがとう、と慌てて移動する家族。結果、母と娘が二人掛けに並んで座り、あまった父の方が僕のとなりに座ることになった。ああ、失敗。
 そこからアラモアナまでの4,50分、僕はずっと親父の小言に付き合わされた。
 でもなんだかんだ、別れのときがくると、解放されたと思うと同時、ほんの少しさびしさも感じた。異国の地で出会った日本人なのだから、やっぱり親近感が違う。バス待ちを含めて一時間いっしょにいた間柄なのに、もうここでお別れして、二度と会うこともないのだ。
 アラモアナで降り立つと、父の方が「うるさくてすみませんでしたな。じゃあお元気で」と言ってきた。僕も同じく、お元気でと告げ、頭を下げた。続いて降り立ってきた母と娘。母のほうはあまり僕と接しなかったので、軽い会釈でそのまま夫についていく。娘さんは車中寝ていたようで、寝起きのボーっとした顔がなんだかおかしかった。
「お元気で」と僕は言った。
「お元気で」と娘さんも言った。
 いい家族だったな。
 最後はそう思えた。

 

(つづく)

 

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